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2007年 10月 12日
多くのスケートファンが、テレビで、また会場で、このイベントを存分に楽しんだことと思います。当方は会場でも見ることができて、ようやく少し気持ちと生活が落ち着いてきたところですので、各選手の演技の感想や、会場でのエピソードなどを記していきたいと思っています。第一弾は安藤美姫さん編。
今回の大会(のテレビ放送)では彼女中心にスポットがあたっていた印象で、事前番組等でも常に中心でしたし、事前の調整状況がいいのも伝わってきました。大会前日練習終了間際に転倒して肩を打っていたことも一部報道で知った上で会場に向かいましたが、特に不安はなく、そういう状況とは今後常に付き合っていかなくてはいけないことはわかっていましたから、静かな気持ちで会場に向かって観戦しました。 6日は、男子競技が終了後、女子競技が始まる前にゆっくり休憩して場内に戻ったら、安藤さんが前半戦練習に登場していたので驚いたのですが、今から思えばできるだけ氷の荒れない時点で滑走させようという配慮だったのかもしれません。会場で見た今回の衣装は、世界選手権フリーの衣装に似た色味に(テレビ放送より華やかな色に見えた)、透け部分や多くのきらびやかなスパンコールを施した(テレビでは、キラキラ感がどうしても伝わりにくい)、シックでありながら華やかな印象もある、風格を感じさせる美しいものでした。ただ、照明の色のせいもあるかもしれませんが、若干顔映りに難があるかも(顔色が悪く見えるかも)とは感じました。見て素敵な衣装だと思いますが、今後の変更の可能性も示唆しており、スケートアメリカではどうなるか楽しみに待とうと思います。 彼女はキャロライン・ジャンの後の滑走だったのですが、審判が使用するコンピューターのうち一台にトラブルがあり、ジャン滑走後に機械を交換したり、点数が出るまで長めに氷上で待たされるなど、若干気の毒なところはありました。ただ、そういったことも今年のジャパンオープンと状況は似ていましたし、とくに気にすることでもないと思って見つめていました。 いざ滑走が始まってみると、事前に滑ったスケーターたちが子どもだったこともあり、安藤さんのしなやかな大人の美しさにはまったく他を寄せつけない完成度と魅力があると感じ(正確には『おお、スッゲー!ものが違うよ』と感じた)、プログラムと曲のシンクロも魅力的で、始まったとたんに名作プログラムの予感がありました。 最初のコンビネーションジャンプにはいる時点で「この角度だと失敗するかな」と直感しましたが、テレビでも映し出されたとおり、転倒のしかたが考えうる限りでもっとも悪く、すぐに起き上がれずフェンスまで滑って行ってぶつかって止まり、それでも立ち上がれない状況で、会場内が水を打ったように静かになり、私はこの時点で棄権するのもやむなしと感じました。 しばらくして立ち上がり、審判やコーチと話をしたのちリンクの中心に向かおうとした時点でも、観客に挨拶をして下がるのかと思っていましたが、音楽が途中から流れて演技を再開。たぶん痛かったり気落ちしたり集中を欠いたりということがあったでしょうが、その後は(採点時の『要素のレベル』としては多少落としたものの)大きなミスなく終了することができました。終了した時点でなお「このプログラムはやはり名作である」という印象は変わりませんでした。 これらに関してはのちに、「前日練習で肩を打って痛みがあり、恐怖心や不安があったこと、そういう気持ちの弱さが演技に出てしまったこと、欠場も考えたが日本の観客に新しいプログラムを見せたいと思い、そのことを楽しみにしていたこと、団体戦なので自分が欠けることでチームの皆に迷惑をかけたくなかったこと」などが本人の言葉として伝えられています。 いままでの彼女であれば逃げたり回避したりしてもおかしくない状況でしたが、逃げずに現実と直面し、冷静な対応ができたことは素晴らしい成長ぶりでした。演技そのものやスケーティングが見事なほどに柔らかく美しくなっていましたし、以前より更に難しいことを力まずさらりとこなし、氷上での雰囲気や全体のたたずまいになんともいえない魅力を感じました。よいコンディションでのこのプログラムは、必ずや名作として人々の心に深く残り、愛されるものになると感じています。 7日のガラは、大半のスケーターがコンペの日よりもよい滑りを見せてくれたのですが、安藤さんの演技もほんとうに素晴らしいものでした。格段にきれいになったスケーティング、シンプルでありながら美しい輝きを放つ気品のある衣装、柔らかで、かつ激しくせつない演技、体型がほっそりとし姿勢を改善したためかすらりと洗練された印象になったこと、それらの全てがない混ざって、馥郁と薫りながら美しく咲き誇る名花一輪ここにあり、という印象を強く受けました。 アンコールでSPの後半部分を滑ったのも素晴らしく、昨日は残念だったけれど、ほんとうはこのぐらい、いやもっともっとできるのよ!という彼女の宣言のようにも感じました。演技中や演技終了後のはつらつとした印象もよかったです。 体操やフィギュアスケートなど、美しさを競うはずの競技の選手がともすれば子どもの集まりになってしまいかねない昨今、彼女の懐かしく感じるほどフェミニンでエレガントな美しさは貴重で、長年この競技から目を離している人をもひきつける魅力があると感じています。 「泣いてばかりいる迷子の子猫ちゃん」だった彼女が見違えるほど成長し、また高いハードルを乗り越えることができ、さらに強く美しくなっていくさまを確かめることができた2日間でした。今後がほんとうに楽しみです。
by morningdew21
| 2007-10-12 23:30
| 競技・大会
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